なぜこの生成AI時代に、収益ゼロで星1つのレビューがついているアプリの開発を続けているのか 〜個人開発はいいぞ〜

私は 2021 年から、 Web/iOS アプリ『つくる人』のための計算メモ帳 Kanau の開発を続けています。

このアプリは、公開から 3 年間、広告も入れず、アップデートを続けており、Apple のデベロッパー登録費用なども換算に入れれば完全に赤字のプロジェクトです。

近年では生成 AI の発展により、わざわざ人間がコードを書いてアプリをメンテナンスすることに対する合理性が見いだせなくなってきていることもあるためか、他の人から「なぜ利益にならない、未来のないことを続けているのか(無駄ではないのか)」と訊ねられることもあるため、なぜこのような一見して非合理的なプロジェクトを続けているのか、その理由を書いてみます。

1.自分が使うために作っているから

まず、一番の理由としては、「自分が使いたいから作っている」というものです。
開発した日から、今まで、Kanau を毎日使っていて、とても満足しています。
他の人にどう評価されたとしても、自分が使いたいものがそこにある、それだけで価値があると思っています。

私はハンドクラフト(Chainmaille)を趣味にしており、それらの材料費を計算したいと思った時に、スプレッドシート以外の、PC でもスマホでも扱いやすいツールで計算したいと思っていました。

そのため、そのようなツールがないかと探していたのですが、当時はそのようなアプリはほとんどなく、あったとしても自分の希望する要件を満たせなかったり、デザイン的な趣味が合いませんでいた。そこで、自分で作ることにしました。要件については以降で述べます。

Kanauは、材料費の計算以外の用途でも使っています

Web 技術を活かせる

Kanau は、Ionic/Capacitor/Angular で作られているため、ネイティブアプリの知識がなくても、Web の知識があれば開発でき、私にとっては学習コストが低かったです。また、Web 技術で作られているため、iOS アプリとしてだけではなく、ウェブアプリとしてブラウザからもアクセスできます。今までの知識を活かし、さらに Web アプリの開発を通じて自分の経験を増やすことができ、この構成でのアプリ開発は私にとっては一石二鳥です。

また、AI は便利で、誰が作っても同じになるようなものを作るのは大得意だと思いますが、特定の人のこだわりや好み、ニッチな要望に寄り添うのはまだまだ難しいと感じています。あまり一般的ではない好みをしている私が欲しいと願うものを、AI が一発でポン出しできるようになるのは、相当先の未来になりそうです。私自身も、コードを書くために AI の力を借りつつも、「AI がある今、人間がコードを書くのは無駄である」とまでは言い切れないと感じています。

データの同期が瞬時に行える

(端末のローカルストレージではなく)Firestore を使用しているため、データの同期が瞬時に行えます。
私は PC もスマホもどちらもよく使い、それらのデータを瞬時に同期したいと思っているので、その条件を満たせるこのアプリは使い勝手がとても良いです。
Notion ですら瞬時にはデータを同期できないのです。

プレーンテキストでデータを扱える

最近では、どのようなメモアプリも、リッチテキストで文字を装飾できるようになっているのですが、私にとってはそれらの装飾は邪魔だと感じます。この記事も、一度プレーンテキストで完成させたものを、他者が読みやすいようにCMS上であとから装飾しています。

どこかから何かをコピーペーストすると文字が大きくなってしまったり、フォントが変わってしまったり…もちろん装飾を削除することはできますが、それらの装飾を削除する工程が面倒だと感じます。プレーンテキストしか扱えないようになっていれば、それらの無駄な装飾を削除する工程が不要になります。

私のような感性を持っているのは少数派だと思いますし、だからこそ、文章をプレーンテキストで扱えるアプリを自分で作る意味があると考えています。

余計なものを表示しない

私は気が散りやすいので、アプリ内の装飾は最低限に抑えているほか、さらにアプリ内の表示を少なくする「ミニマルモード」を用意しています。
自分に不要なものをなくし、必要な機能を搭載できるのは、自作アプリならではです。

2.自分のために何かを作ることはセラピーになるから

私は Web 制作を仕事にしています。
これは Web 制作に限らない話ですが、仕事とは、誰かのために何かを行ったり、作ったりすることで、対象となる人に価値を提供し、その対価をいただくことです。このため、仕事をするうえでは、「対象となる人がどう感じるか、考えるかを想像する、人を動かすためにどう働きかければ成功するのかを考える」ことが重要になります。この段階では、エゴは何の役にも立たず、むしろエゴや自分の思い込みをできる限り排除して考えて行動する必要があります。

私は、仕事をする時間が長くなればなるほど、自分の心を無視して行動しなければならない時間が長くなり、それだけが長期間続いていくと、何に対しても心が動かされなくなり、生きる気力を失ってしまうことがあります。

そんなとき、自分のために何かを作ることは、セラピーになります。

どんな機能が欲しい?ボタンはどこに配置する?どういう言葉を選ぶ?そういった問いかけを自分に投げかけることで、日頃「無」に徹しようと努力する自分の心に働きかけ、自分を大切に扱いながら、自分の意思を生き返らせることができます。
自分で作る自分のためのアプリだからこそ、自分を無視せずに、自分の意見を尊重して行動に移せます。

あとは、単純に、何かを作って動かすって、それだけで楽しいですよ。
それを楽しいと思える心を失わないように気をつけています。

3.レビューの内容が妥当だと思うから

星一つのレビューの内容は、「どこにいて何が出来るのか根本的に分かりにくい」「使い方がわからない」といったものでした。これらの訴えかけについて、私は、作った人だから当然、使い方が分かりますが、初めて使う方にとってはそう感じるのも無理はないと思いました。シンプルに見えて、計算機能のおかげでちょっと込み入ったアプリではあります。

また、これらのレビューがついたことを X で嘆いたところ、それに対して「実は私も使いにくいと思っていた」という声が寄せられ、ますます、それはそうかと思うようになりました。
文句を言っていいと分かったものに対しては、俺も俺もと容赦無く重ねてくるのが人間ですね…理解はしつつも、えぐられました。最初の星 1 つのレビューがなければ、次の星 1 つのレビューは来なかったかもしれないと思っています。

それらのレビューを書いた人たちは、何らかの期待を持ってアプリをダウンロードし、そしてその期待を裏切られたからレビューで発散したのではないかと考えています。期待に応えられなかったことに関して、申し訳ない気持ちがあります。

そもそも異なる人間同士、理解しあえることがレアな現象だとは思っていますが、できる限りの部分は解消すべく、アプリの改善を続けています。
改善するためには、開発を続けなければいけないということです。

デザイン面では、自分の許せる範囲で、アプリで利用するアイコンや色の構成を変更したり、ボタンを追加して、どこのページにいるか、何ができるかを少し分かりやすくしました。また、アプリ内で利用するターム(文言)を、より一般に広く使われていそうな様式に変更しました。さらに、「使い方ガイド」のページを追加し、どのページで何かできるのかを分かりやすくしました。

最後に

私がアプリ開発を続ける理由は、

  • 自分が使うためのアプリなので作り続ける
  • 自分のために何かを作ることがセラピーになるので続ける
  • レビューの内容が妥当だと思うから改善するために作り続ける

というものでした。

個人開発はいいぞ。
例え、誰からも評価されなくても。

とはいえ、できることなら、これを読んでいただいた皆さまが「使える」と思ったアプリやサービスに関しては、ぜひ星 5 つのレビューを送っていただきたいです。

私自身、自分が良いと感じたアプリに関しては星 5 つのレビューを書いたり、情報を発信しているのですが、それらの行動で損することが何もないばかりか、むしろ得していると感じています。

別に、「このアプリを入れたらモテモテ!」とか「宝くじが当たりました!」とか、そういう出来事がまったくなかったとしても、ごく普通に使えれば、それは星 5 つのレビューを送るに値するんです。
良いレビューは、アプリやサービスの開発者にとって最大の支援になり、アプリが継続して開発されることにつながります。
(悪いレビューで折れない、私のようなタイプのほうが珍しいと思います)

そして「これいいよ」の情報を発信することで、それに似た「いいもの」の情報が自分のところに集まりやすくなったり、アプリやサービスに関するお仕事に発展したり、と言ったことも一度や二度ではありません。良いと思ったものを良いと発信する、それだけのことが、私の人生にたびたび良い風を起こしています。
ぜひ皆さまもお試しを。

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